B2Bのメディアプランで忘れがちな「生活者としての時間」

B2Bのメディアプランで忘れがちな「生活者としての時間」

B2B商材の広告運用って、こんなイメージありませんか?

「土日や夜間は職場にいないのだから、配信を止めたほうが無駄がなさそう」
「YouTubeやInstagramはプライベートで見るもの。仕事に関する広告は合わなさそう」
「B2Bの取引は慎重に調べて決めるものだから、能動的な検索広告に勝る施策は無い」

どれも、B2B決裁者の「オフの時間」に広告を出しても響かないんじゃないか、というイメージから来ています。

私自身も、B2Bの広告運用にしっかりと向き合うまでは、そんな印象をもっていました。でも、実際にデータを見てみると案外そうでもないことが分かりました。

B2Bでは「オフの時間」は効率が悪い?

B2Bの広告運用では、本当に「オフの時間」は効きづらいのか、現場のデータを集めてみました。

① 土日も、平日と変わらない効率だった

あるソフトウェアサービスの3ヶ月間のリスティング広告の成果では、配信ボリュームこそ減りますが、土日のMQLは平日と遜色ありませんでした。

② 深夜・早朝のほうが、効率が良いこともあった

総務向けサービスを展開しているお客様では、業務時間帯の10:00~17:00に比べ、早朝や深夜帯のMQL単価は半分以下でした。配信量にこそ大きな差がありますが、効率的な接点の獲得に成功しています。

③ リール面もフィードと同じくらいターゲットが見ていた

ある機器販売のお客様では、Instagramのリール面への動画配信を行いました。 当初は「リールは娯楽色が強く、成果はあわないのではないか」と懸念していましたが、結果は予想以上でした。

媒体CPAはもちろん、その後の商談効率で見ても他媒体と遜色なく、経営層を含むターゲット層へ効率的にアプローチできていました。

④ YouTube経由でも商談は生まれていた

製造業向けサービスのお客様では動画素材を活用し、YouTube面を中心にDemand Genキャンペーンの配信を行いましたが、商談単価はリターゲティングとほぼ同等でした。

なぜ「効かない」と思い込んでいたのか

データを見れば、土日も、深夜も、YouTubeも、Instagramも、B2Bで効かないわけではありません。

日中よりも「量」の面で劣るケースは少なくありませんが、効率の面では遜色ないことが多く、むしろ勝ることもあります。

では、なぜ「効かない」というイメージがあったか。当時の私の感覚を振り返ると、こんな先入観があったように思います。

「B2B」は取引の種類なのに、人間の種類だと錯覚しがち

「B2B」という言葉を使った瞬間、まるで24時間スーツを着ている特別な種類の人間がいるかのように想像してしまいます。

でも実際には、B2Bの取引をする決裁者も一人の生活者で、家に帰ればYouTubeを見るし、週末はInstagramをスクロールする。

誰も自分のことを「B2B決裁者である」と自覚しながら日々の生活を送っているわけではありません。

「取引が起きる場所」と「影響を与える場所」を混同しがち

B2Bの取引は、オフィスで、平日に、フォーマルなプロセスを経て行われます。だから、広告もそこに集中させるべきだと思い込みがちです。

でも、取引が起きる場所と、広告が響く場所は、同じとは限りません。リラックスしている時に入ってきた情報が、後々で仕事に活きることもあります。

「真剣な意思決定」には「真剣なチャネル」が必要だと思いがち

B2Bの意思決定は高額で、複雑で、論理的なものです。そのため、YouTubeやInstagramのような娯楽的なチャネルは、その真剣さにふさわしくないと感じていました。

しかし、チャネルが娯楽であっても、見ているのは同じ課題を抱えた人間です。仕事モードから離れていても、頭の片隅には課題が残り続けています。

情報探索の目的がなくリラックスしている時だからこそ、ふと流れてきた広告の解決策が、かえって目に留まるという可能性も十分にあるのではないでしょうか。

私が「効かない」というイメージを持っていたのは、「B2B決裁者」という言葉に引っ張られて、彼らの「オフの時間」を軽視していたからだと思います。

オフの時間は「候補リスト」入りのチャンスにも

ここまで「オフの時間」のアプローチを「獲得効率」の観点で見てきましたが、「認知形成」や「将来の指名買い」を作るという点でも重要な意味がありそうです。

LinkedIn B2B Instituteの調査(The First Impression Rose)によると、「B2Bバイヤーの86%は検討初日の時点ですでに候補リストを持っていて、92%はそのリストの中から最終決定する。」と言われています。

つまり、顧客が検索など主体的な行動を始めた時点で、勝負の大半はついている可能性がある。

多くのB2Bでの広告運用では、「能動的に行動している瞬間」を捉えることに集中しています。検索広告、ビジネスメディア、ホワイトペーパーのダウンロードなど、課題を認識し、解決策を探している人を効率よく捉える。

一見、合理的なアプローチですが、候補リストが能動的な行動の前に決まっているなら、検索している瞬間を捉えても、「候補リスト」に入っていなければ比較すらされない可能性があります。

では、その候補リストはいつ形成されるのか。私は、「オフの時間」にこそヒントがあるのではないかと考えています。

オフィスで「さあ検討するぞ」というモードの時は、競合他社もこぞって広告を出していたり、目の前の業務をこなすために、必要な情報以外はノイズとして無視しようとする心理が働いています。そこで自社を印象づけるのは容易ではありません。

でも、オフの時間なら話は違うかもしれません。たとえばこんな見方もできると思います。

  • オフの時間でも仕事のことが頭から完全に消えているわけではない。だから関連する情報にはちゃんと反応する
  • 仕事中は「比較」モードだけど、オフは「発見」モード。比較される前に単独で印象を残せる
  • 仕事中は忙しくてじっくり見る余裕がないけど、オフの時間ならゆっくり見られる
  • 競合が出稿を弱めている分、目立ちやすい

YouTubeを流し見しているとき、Instagramをスクロールしているとき、夜の静かな時間にふとスマホを開いたとき。特に何かを探しているわけではない。

でも、たまたま目に入った広告が「あ、これうちの課題に使えるかも」という記憶を残す。この記憶の蓄積によって、いつか検討を始めるときの「候補リスト」に入れる可能性があります。

B2Bの広告で大切にしたいこと

こうしてデータを振り返ってみると、「B2Bだから効かないはず」という思い込みは、案外根拠が薄いのかもしれません。

「B2B決裁者」という言葉は、取引の形態を表しているだけで、人間の種類を表しているわけではありません。家に帰ればYouTubeを見るし、暇なときはInstagramをスクロールする。

もちろん、すべてのケースでうまくいくわけではありません。でも、思い込みで選択肢を狭めてしまうのは、もったいないことだと感じています。

この記事を書いた人

株式会社オーリーズ

マネージャー

肥田 悟志

新卒にて株式会社ネットマイルに入社。 営業経験を経て、新規事業であるDSP事業の立ち上げや代理販売商材の発掘・販売戦略策定を行い、入社2年目からチームリーダーとして従事。一方で日々広告主に接する中で、マーケターとして中立的な視点のもと、戦略策定から施策の実行まで価値提供を行いたいと思い、オーリーズヘの参画を決意。 マーケターとして、広告主とユーザーに本質的な価値を届けるために、そして広告主の運命共同体となるために、日々邁進している。

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